山のふるさと村のふしぎ植物の紹介です。
今回紹介するのはテンナンショウ。
テンナンショウ(天南星)は広く見るとサトイモの仲間。種数も多く、山地では意外とメジャーな植物です。
まず不思議なのはその形。ヘビのあたまのような部分は葉が変形したもの(仏炎苞といいます)。この葉の内部の空間にたくさんの小さな花が咲きます。
実はこのヘンテコなかたちには意味があるのです。テンナンショウはキノコのような不思議な香りでキノコバエなどの小さな昆虫を仏炎苞の中へ誘い込みます。入り込んだ昆虫たちは出口を探して動き回りますが、仏炎苞内部は一度入ると抜け出せないようなつくりをしています
これこそがテンナンショウの作戦なのです。この構造はテンナンショウのオスが昆虫を利用して、テンナンショウのメスに自身の花粉を届けるためのものであると考えられています。
一体どんな方法をとっているのでしょう?
まず、不思議な香りに誘われて、オスのテンナンショウに訪れた昆虫はやはり仏炎苞から抜け出せなくなります。
出口を探しまわるうちに、昆虫はオスの花粉まみれになってしまうのです。
ところがテンナンショウ、面白い事に入口とは異なるところに小さな出口があるのです。
運よく出口を見つけた昆虫は見事、テンナンショウから抜け出すことができます。
これでもうテンナンショウは攻略。と言いたいところですが、実は出口はオスのテンナンショウにしかありません。運よくオスのテンナンショウから抜け出せた昆虫も、メスのテンナンショウに入ってしまうと抜け出せず、その生涯を仏炎苞の中で終えることになります。そして、昆虫についていたオスの花粉はしたたかにメスが受け取るのです。
このように、テンナンショウは不思議な香りで昆虫たちを誘い込み、オスとメスの間を行き来させることで確実に花粉のやり取りを完了させるのです。
テンナンショウの不思議なかたちの裏にはこのような虫を利用する作戦があったのですね。興味深い植物です。
ちなみにテンナンショウはよく食虫植物のウツボカズラに似ていると言われますが、食虫植物ではありません。ですが、どちらの植物も虫を呼び寄せ閉じ込める、という似通った作戦を持っています。そのため、彼らの姿はお互いに似ているのでしょうね。
さて、テンナンショウですが、虫たちの犠牲によって受粉に成功すると初夏に実をつけます。
この実が、これからの季節のイチオシ観察ポイントです。テンナンショウは小さな果実があつまった果実の塊をつくります。
そして、この赤い不思議な果実さえも、実はテンナンショウのある作戦なのです。
不思議な植物、テンナンショウのさらなる作戦の詳細と実際の姿はぜひ山のふるさと村でご確認ください!
(インタープリター/けんけん)